心がかたくなになってしまったとき、香りに触れることでフワッと自分自身がほぐれていく…。星野さんは、そんなご自身の体験を通して、自然界の恩恵をさまざまな形で届ける活動をされています。この度、3月の春分の日に合わせて、星野さん調香による「くらしきぬ」初のオリジナル精油をお届けできることとなりました。今回はそのご縁から、数滴の香りがもたらしてくれる豊かな時間や、慌ただしい日々の中でも本来の自分に還るためのヒントについて、お話を伺いました。

植物はきっと、人の役に立つことを喜んでくれている
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星野さんが調香された精油は、香りだけにとどまらない奥深さを感じます。現在どのような活動をされているのか、まずは教えてください。
星野さん:オンラインストアを通じて精油を販売したり、イベントでアロマテラピーや植物療法に触れる機会をつくったりしています。かしこまった講師業というわけではありませんが、いつでも誰でも身近に自然界の恩恵を感じていただけるような、香りのプロダクトや講座をお届けしているという感覚です。
そもそもこういった活動を始めたのは、出産した助産院がアロマを取り入れていたこともありますが、一番のきっかけとなったのは子どものアトピーでした。最初は対症療法として「アトピーにはアロマがいい」と聞いて取り入れたのですが、使っているうちに、「香りがあるだけで、こんなに違うんだ!」って、私自身がフワッとほぐれる感覚があったんです。「これはいい! これを伝えるにはどうしたらいいんだろう」と、試行錯誤しながらやってきたという感じです。
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ご自身の癒された経験から、香りを届ける活動へとつながっていったのですね。そんな星野さんが主宰されている『flūr』(フルーア)。この言葉には、どんな思いが込められているのでしょうか。
星野さん:『flūr』は、古代ゲール語(※)で「花」を意味する言葉だそうです。語源は、「花」や「小麦粉」。人にとって花は喜びとなり、粉は暮らしを支えてくれる存在です。「古くに使われていた言葉=人や地球の歴史」であることや、もともとケルト文化を受け継ぐ話に惹かれていたこと、そしてパッとあるタイミングで美しく咲く花のように、人間も一人ひとり持って生まれた個性や才能があるから、みんなが「自分を咲かせる」手助けに香りがなってくれたらという思いを込めて、この言葉を選びました。というのも、私自身、日々の役割に追われる中で、電車の窓に映る険しい顔をした自分に気付いてハッとするほど、心がかたくなだった時期があって。でも、香りと関わるようになってから、暮らしも、ものの見方も変わって、私自身が助けられたんですよね。
※ゲール語は、インド・ヨーロッパ語族のケルト語派に属する言語。
この活動をしていると、かつて植物療法の先生が言ってくれた、「植物は、人間の役に立つことを喜んでくれているんだよ」という言葉は、本当にその通りだなと思うんです。そして、人間も種を運ぶなどして、実は植物とはお互いに助け合う存在なんですよね。だから私は、「まずは目の前の植物たちが元気でいられるようにしたい」と思っていて。そうすると、自ずと選ぶ精油も変わってくるんです。そうして手掛けた香りを、誰かが「心地いい」と受け取ってくださることで、いい循環が生まれたらいいなと思って。そういう優しい風景を見ていたいという気持ちで活動しています。

お仕事は「喜ばせあいっこ」
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星野さんは、精油を選ぶときにどのようなことを意識されているのでしょう。
星野さん:精油って、膨大な量の植物からほんの少ししか採れない、本当に貴重なものなんです。商業的なものなど、世の中にはいろいろな事情で作られている精油もありますが、その貴重さや、育てる人の大変さなどを知っているからこそ、精油をせっかく使わせてもらう身として、「せめて自分個人でできる範囲では、しっかり選びたい」と思っています。調香については、実は私、「自分は調香師だ」っていう感覚はなくて。比率やレシピなどを考えて調香するときもありますが、最終的には「みんなが喜ぶ感じはこうかな?」というように、知識よりも感覚を大切にしています。
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「みんなが喜ぶ感じ」。その言葉に、星野さんのお人柄が表れているように感じます。星野さんにとって、香りを届けるお仕事とはどのようなものだと感じていらっしゃいますか?
星野さん:なんでしょうね。お仕事って、「喜ばせあいっこ」みたいなところがあるなと思っています。ただ「何かを一方的にを販売する」というのではなくて、自分にできることを通じて喜びを交換する、あたたかい物々交換のようなイメージでしょうか。
精油というのは、動けない植物が生きるために編み出した「智慧の結晶」。その力は、私たちの心身にさまざまな形で働きかけてくれます。動ける私ができることは、そんな植物の恵みを必要としている方のもとへお届けすることかなと。受け取ってくださった方の日々が輝いていくような「おおらかな流れ」が、ゆくゆくは自然や植物たちへの豊かな還元につながればいいなと思っています。「そうなるために、私ができることは何だろう?」と考えていったら、自然と今の活動にたどりついたという感じなんです。
自分を思い出すきっかけに
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「くらしきぬ」では「わたしに還る、第一歩」というコンセプトを大切にしています。星野さんは、日々の暮らしのなかで、本来の自分に還るためのきっかけにしていることはありますか。
星野さん:「体を動かすこと」ですね。ヨガをするのが、私にはすごくよくて。実はここ2年くらいは、「思考」を使ってパーッと走らきゃいけない時期だったんです。人生のフェーズだと思うんですけど、「本来の自分から、ちょっと離れちゃってるな」と思いながらも、走らなきゃいけない時期で。そういう時期って、きっと誰にでもあると思うんです。そんな時、私は体を動かすことが一番自分をチューニングしやすくて。
体を動かせない時であれば、朝起きてすぐに簡単なアヴィヤンガ(※)をすることがあります。アヴィヤンガって、すごく「包まれた」感じがして大好きなんです。包まれた気持ちになると、「あぁ、これが私だなぁ」というところから一日を始められます。※温めたオイルを全身に塗布するインド式按摩
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今回調香してくださったオリジナル精油は、「くらしきぬ」のブランドコンセプトや、「わたしを思い出す香り」をイメージしてブレンドしていただいたそうですね。
星野さん:はい。今の時代は、みんなとにかく忙しすぎて、重い感情や不要なものを積み重ねてしまいがちだと思うんです。そんななかでも、「あぁ、いい香りだなぁ」って感じる瞬間があると、幸せな気持ちになりませんか。香りはきっと、そんな風に自分の心が喜ぶ瞬間をキャッチするための扉になってくれると思うんです。
今回のオリジナル精油には、ラベンダーアングスティフォリアやマジョラムスウィートなどをブレンドし、自身を慈しむようなやすらぎをもたらす香りをイメージして調香しました。ちなみに、ラベンダーの語源はラテン語の「Lavare(ラヴァーレ)」で、「洗う」という意味。アングスティフォリアは、数あるラベンダーの中でも、高地で厳しい環境に育つからこそ生まれる、澄んだ、クリーンな香りが特長です。このラベンダーアングスティフォリアを、蓄積されたものをそっと洗い流し、まっさらで純粋な「本来の自分」へ還るためのキーノート(主役の香り)として選びました。香りを纏うことで、手に取ってくださった方が「わたしへ還る」きっかけになれたら嬉しいです。 
精油の瓶は小さな地球
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『flūr』さんのホームページに、「小瓶のなかは美しい地球」という素敵な言葉がありますね。
星野さん:精油の入ったガラスの小瓶って、一見無機質な感じに見えるかもしれません。でも私には、地球上では遠く離れた場所に生きる植物たちが、誰かの助けになるためにこの小さな瓶の中で手を取り合っているように見えて…。まるで「ちっちゃな地球」みたいだなって感じるんです。本当は、身近な場所の植物を集めて地産地消でお届けできたら、という思いもあります。でも、精油に触れているうちに、「その土地ならではのエネルギー」や、植物それぞれの得意分野があることを教えられました。だから今は、そういったさまざまなエネルギーをありがたく取り入れさせてもらっています。
地球上では決して出会うことのなかった植物たちが、人の手を介して出会い、誰かの役に立っていく。そこには、植物たちの見えない意思のようなものも働いているような気がして。私自身も、植物たちと一緒に、進みたい方向へ自然に導かれているような、そんな感覚があるんです。
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そんな「小さな地球」。手に取る方に、日々の暮らしの中でどのように楽しんでほしいと願われていますか。
星野さん:ほんのひとしずくの精油をとるために、どれだけの植物が必要かを垣間見ていると、小瓶を手にするたびにたくさんの植物の姿が目に浮かびます。植物たちが「人間の役に立ちたい」と思ってくれているのであれば、その意思を受け取って届けることが、誰かの心地よさに繋がるといいなと願っています。だから手に取ってくださる方は、まずは効果とか効能を頭で考えるよりも、ただ「あぁ、いい香りだなぁ」と感じていただけたら。きっとそこから生まれる心地よさは、波紋のように広がり循環していくのではないかと思うんです。そんな流れの中にいられることも嬉しいんです。
いつか読んだ本にこんな一節がありました。「美しいものに触れると、自分のなかの純粋性と響き合う」と。そしてまた、「私たちがほかの人に与えられる最大の贈り物は、自分自身が幸せで希望に満ちていること」とも教わりました。精油という植物の恵みに触れることで、ひとり一人が純粋な「わたし」に還るひとつの手立てになれば。そして、フワッと気持ちが軽やかになるその感覚が、花のようにご自身を咲かせる手助けになれたらと心から願っています。

