ときめきくらしびと
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第2回 高橋美希さん|ときめきの源は好奇心―自分の「できない」を許し、おもしろがれるようになった20代

くらしきぬのお客様とのおしゃべりを通じて、日々の暮らしの中で「ときめき」を見つけるコツを探る『ときめきくらしびと』。第2回は瀬戸内海・直島のホテルで働く高橋美希さんにお話を伺いました。

ときめきくらしびと 第2回 高橋美希さん

美希さんのInstagramからは、海を眺めながら読書をしたり、ベランダで家庭菜園を楽しんだり、のんびりと心豊かな暮らしを送っている様子が窺えます。お会いしたときの印象も、接客のお仕事をされているからか、相手を安心させてしまう穏やかな雰囲気をまとっていました。ところが「苦手なことは片付け」「子供の頃から言い方がきつかった」と話すからびっくり。「できない自分」を否定し、向き合い、理想の生活を築くまでの道のりを、飾ることなく、さらけ出して話してくださいました。

プロフィール

高橋美希さん|香川県の直島在住・ホテルスタッフ。接客の仕事に魅せられ、旅行代理店、通信機器メーカー、化粧品メーカーでの販売経験を経て、辿り着いたのは「アートの島」として知られる直島のホテルスタッフ。好きなアートは、ジェームズ・タレルの「オープン・スカイ」(直島・地中美術館)。

美希さんInstagram

過去の自分とご縁が繋いでくれた直島の地

  • 美希さんは直島のホテルで働かれているということですが、今までのキャリアについて教えて下さい。

    育ちは岡山県の岡山市内で、直島に辿り着くまではわりとふらふらしていました(笑)新卒で入社した旅行代理店は激務のあまり体調を崩して3ヶ月で辞めて、その後は携帯電話の販売員、化粧品の販売員…と接客業を続けて、今は直島のホテルでスタッフとして働いています。

  • 接客のお仕事が好きなんですね。

    人とお話しするのが好きですね。扱う「もの」自体に元々興味がなくても、その場所で自分が楽しく話しているイメージができたら働ける気がします。

    キャリアの中で一番長く続いたのは、6年半勤めた化粧品の販売員でした。でも26歳で店長になった時、一緒に働くスタッフに迷惑をかけてしまうことが多々あり、すごく悩みました。「なんでできないの?」と問われても全然答えがわからなくて、苦しい時期でした。多数の人ができることが平均点だとすると、それができない自分が人間として至らないような気さえして…。ブランドや会社のことは大好きでしたが、「私は管理職ではなく、プレイヤーとして接客がやりたい」という気持ちが募り、最終的に会社を辞める決断に至りました。

お会いした瞬間、相手を安心させてしまうほほえみ。淡いラベンダー色のワンピースが、美希さんの雰囲気にぴったり。

  • 化粧品の販売業から直島のホテル業に辿り着いたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

    「辞めたい、でも本当にそれでいいのかな?」と自己内省を繰り返していた時に、ちょうど直島でのホテル業の求人が出ていて、働いているイメージができたし、何よりワクワクしたんです。

  • 直島のことは昔から好きだったのでしょうか?

    直島との出会いは二十歳のときで、それからずっと好きな島です。二十歳のときは二十歳のときでまた別の悩みがあって(笑)尊敬する友人に相談したら「直島と豊島(てしま)に行ってごらん?」と助言をもらって。「言葉や写真で説明してもだめだから、実際に行ってみた方がいいよ」と。

  • それは…すばらしいお友達ですね。

    信頼している友人の言葉だったので、教えてもらった3日後とかに行ったら、もうすごかったんです。豊島美術館の中に入った瞬間、鳥肌が立って泣きそうになって、その時の感動はずっと忘れられません。岡山に住んでいてすぐに行けたはずなのにずっと行ったことがなくて…直島と豊島は本当におすすめしたいです。私にとって旅の楽しさを教えてくれた場所でもあり、たくさんのご縁を与えてくれた場所でもあります。

岡山から直島には、宇野港から出ているフェリーで20分ほどで行ける。たった20分間の移動でも、船内アナウンスと潮の香りが旅情を感じさせる。

知らないことに触れられたとき、ときめきます

  • 直島・豊島をきっかけに旅好きになったんでしょうか?

    そうですね、直島・豊島を知ってから現代アートや建築にもっと触れたくなって、美術館を目的に旅をすることが増えました。友人の影響で電車旅にもハマっていたので、行動範囲が一気に広がったように思います。

    東京まで青春18きっぷで12時間かけて行ったときは、電車でたまたま隣に座ったおばさまとその後毎年会うような仲になったり(笑)おばさまは滋賀に住んでいるのですが、年賀状やお手紙を交換して、娘のようにかわいがってくれているんです。

  • 偶然隣り合った女性とお手紙を送り合う仲になるなんて、さすが接客業の方だなと感じます!

    話していたら「何かの縁だし」と連絡先を交換することになりました。話しかけやすいのか、普段から歩いていると知らない人によく話しかけられます(笑)鈍行電車を選んでいるのは、どんどん方言が変わっていく感じとか、ゆっくり揺れる感じがすごく楽しいですね。海や山などの景色も近くで見られますし…電車旅が好きです。

  • 電車旅で行かれた場所ではどちらが印象に残っていますか?

    京都の大山崎山荘美術館です。安藤忠雄さんの建築やモネの絵が飾られていて、直島での感動があったからこそ出会えた美術館です。

    やはり、知らないことに出会えることがおもしろいです。例えば、豊島美術館はかまくらみたいな作り方で、土を盛った後に中の土を掻き出して作られているんです。そういった物の成り立ちや自分の知らない知見、景色に触れられた時にすごくわくわくします。今まで三角に見えていたものが、実は四角だった!という気付きがあったらとってもおもしろくないですか?

    知らない部分が見えた時に興奮するという点に関しては、多分人に対しても同じです。会話する中で、話す前には見れなかった相手の表情が見られるととても嬉しくなります。

瞳をキラキラ光らせながら、アートのおもしろさについて教えてくれる美希さん。

自然と触れていると、おのずと変化に出会える

  • 直島での暮らし、とっても憧れるのですが一日の過ごし方を教えてください。

    ホテル業なのでシフトによって勤務時間はバラバラなのですが、寝る時間と起きる時間は毎日変わらないです。朝起きる時間が変えられなくて、目が覚めてしまうんです。たとえ15~24時のシフトだとしても、帰ってすぐにシャワーを浴びて、できるだけ1時には寝て朝は6~7時くらいに起きています。

    やることは毎日それほど変わらなくて、山が近いので朝起きたらとりあえずベランダに出ます。鳥のさえずりが聴こえて、雨の音さえもいいなと感じます。直島には生協のみでスーパーがないので、買い物はフェリーに乗って本島まで行きます。今、一生分のフェリーに乗っているかもしれません(笑)買い出しがなければ海に出て本を読んだり、美術館に行ったり。島民は美術館が無料なので、何度も行っています。

  • 読書の場所は海辺がいいんですね。

    本はずっと好きでしたが、集中できる環境が海でした。直島の穏やかな景色と海の音が好きなんだと思います。コーヒーを淹れてお気に入りの海辺に行くとすごくリラックスできます。

お気に入りの海辺「つつじ荘」では、本を読んだり歌を歌ったり…自由に、気の向くままに過ごしているそう。うんとリラックスした表情。

  • 朝ベランダに出た瞬間から、ときめきの連続ですね…!

    はい、自然の美しさにときめきます。自然と触れていると、変化に出会えるんです。例えば、3月くらいに全然うまく鳴けていなかった生まれたてのうぐいすが、5月には「ホーホケキョ」と上手に鳴けるようになっていたりする。他にも、同じ日没でも日の暮れる場所が変わったり、雨の匂いとか潮の香りとか、いくつもの変化に出会えます。

最近ときめいた、オクラの芽。家庭菜園をしていると「こんな風に芽が出るんだ」「こんな風に実が成るんだ」と発見の連続とのこと。

自分にとっての「面倒くさい」をやりたくない

  • 美希さんにとって直島での生活は、予期していなかったもののしっくりしているように感じます。それは「より楽しい方に」という意識が常にあったからこそ、理想に辿り着けたのでしょうか。

    そうですね、今の生活はとてもしっくりきています。ただそれは「より楽しい方に」という意識があったからというよりも、私は面倒くさがり屋なので、やりたくないことをやりたくないんです(笑)

    満員電車に乗ると疲れるから田舎で暮らしたいと思っていたし、部屋が散らかっていると集中できないから物を減らす、というように自分が疲れる方向がわかっているので、それを快適に暮らしていくにはどうすれば?を考えて今の生活があります。他にも床に座ると動けなくなるからテーブルと椅子を置いたり、夜ふかしすると気分がどよんってなるのがわかっているから早く寝たり…。行動してみて、「違う」となったことはとりあえず変えてみます。

  • 私も機嫌が悪いときは大体寝不足かお腹が空いているときです…(笑)自己管理で気をつけていることはありますか?

    元気になるためのツールをいくつか持っています。読書に関して言えば、「落ち込んだ時は、この漫画のこのシーンを読む!」まで決まっています(笑)

    あとは、睡眠、お風呂、自炊、基本的なことです。昔は自分にも他人にも厳しくて、食生活が乱れて体調を崩したときもありました。でも、食事を整えたらどんどん性格が柔らかくなって、折り合いが付けられるようになったんです。自分に甘くなれると他人にも甘くなれるんですね。食べることって生きることだから、心の豊かさとして、食事は大事にしたいです。

自分を知ったら、自分の「できない」も許せるようになった

  • それだけ自分の特性を把握して、ひとつひとつ対処できているのは、相当な努力だと感じます。

    31歳になったら大体自分の性格がわかるんですよね。20代のうちは、いつも人と比べていて、「なんでみんなはできるのに私はできないんだろう」という気持ちがすごく大きかったです。子供の頃から言い方もきつかったので、「なんで人の気持ちがわからないの?」と言われては、分からない自分を責めていました。大人になれば、おでこのあたりに人の気持ちが見えるようになるのかと信じていたのに、大人になっても一向に見えないからおかしいなぁと(笑)

  • 今の柔らかい美希さんからは想像できないです…!

    悩んでいた26~27歳くらいのときに、自分を知ろうと努めたら過去に合点がいきました。他人に合わせられないとか、ひとりの時間が好きとか、一つ一つ自分の特性を把握していったら、自分の「できない」も許せるようになりました

  • 良い部分と、「悪い」とされる部分は、表裏一体だったりしますもんね。

    自分が苦手で、かつやりたくないことを必死にがんばるのって、すごくツライじゃないですか。苦手なことでも「成長したい」という気持ちが勝てば、できないこともがんばればいい。「自分の心が喜ぶのはどっちかな?」を基準に考えられるようになりました

  • 20代で大きな変化があったんですね。今の美希さんからは、言葉が強い印象は受けなかったです。

    練習の成果かもしれないですね(笑)「変わっている人」という言葉を受けたこともあるし、大人数の中に入れなくて苦しんだこともありました。でも今はそんな自分をおもしろがれているし、少数派の気持ちもわかるので、そんな自分でよかったなと思えています。

  • 最後に、美希さんにとっての「ときめき」を教えていただけますか?

    「好奇心」です。

美希さんのくらしきぬ愛用品

 

冷えとり靴下 ウールカバーソックス〈すっきりタイプ〉

基本4足セットのカバーソックス。最初は重ね履きをしていたけれど、冷えとりをしている友達に「できる範囲で調整すればいいんだよ~」と教えてもらい、今はカバーソックス1枚がしっくりきてる!

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  • 取材・文:
    佐藤文子
  • 撮影:
    瀬良智也
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