ときめきくらしびと
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第9回 山本浩未さん|誰にでも輝く魅力が必ずある―自分を知ることが「きれい」の第一歩

くらしきぬのお客様とのおしゃべりを通じて、日々の暮らしの中で「ときめき」を見つけるコツを探る『ときめきくらしびと』。第9回は、ヘアメイクアップアーティストとして活躍し続ける山本浩未さんにお話を伺いました。

ときめきくらしびと 第9回 山本浩未さん

「一流の人ほど謙虚」とはよくいいますが、とびっきりチャーミングで親しげな雰囲気をまとう浩未さんに初めてお会いしたとき、その意味がすっと腹落ちしました。目の前の相手に対してGIVEの姿勢で接する。長年第一線を走り続ける人の強さは、そんな小さな積み重ねで作られているのかもしれません。タフな心と体を手に入れるまでの道のりを教えていただきました。

プロフィール

山本浩未さん|東京都在住・広島県福山市出身。資生堂美容学校卒業後、資生堂ビューティークリエーション研究所にて、子供の頃から憧れたヘアメイクアップアーティストになる夢を叶える。1992年にフリーランスとなり、独自の美容メソッドを数多く開発している。

山本浩未さんInstagram

夢を叶えても、揺らいだ30代

  • ヘアメイクアップアーティストとして長年活躍し続ける浩未さん。資生堂の美容学校に行かれていますが、子供の頃からの夢だったのでしょうか?

    中学生の頃に『ベルサイユのばら』という漫画にものすごく夢中になり、映画化したときに資生堂が協賛していたんです。『花椿』という資生堂の広報誌で、ヘアメイクアップアーティスト(以下、ヘアメイク)が手掛けたシーンなどが紹介されていて、メイクの美しさや可能性に衝撃を受けました。そこで『花椿』宛に、「この人みたいになるにはどうしたらいいですか?」ってお手紙を書いて(笑)半年後くらいにお返事をいただいて、資生堂には美容学校があること、その先に資生堂の研究所があることなど、ヘアメイクになる道筋を教えてもらいました。

  • 中学生の頃から・・・!早いですね。

    もう絶対にこれになるって決めて、その通りの道を進み、無事資生堂に入社しました。28歳までヘアメイクとして働いたのですが、ずっとひとつの夢を追いかけてきたので、もしかしたら他の道もあったんじゃないかな?と立ち止まっちゃって。全く別のことをやってみたくなり、一旦会社を辞めて広島に帰りました。でも数ヶ月の間に、やっぱり私にはヘアメイクしかないと思い知らされる出来事が多々あり・・・フリーランスのへアイメイクとして、東京に戻りました。

  • 20代後半はこれからの生き方について思い悩む時期ですよね。一度立ち止まったことで、ヘアメイクの仕事への思いをより強くされたんですね。

    フリーになったタイミングはすごく良かったと思います。それまでヘアメイクはイメージで語られることが多かったのですが、私は会社員時代にイメージを論理的にわかりやすく説明するということを教えられていました。そうしたスキルを雑誌の編集者さんから重宝がってもらえて、たくさんお仕事をいただくことができました。もう30代はブルドーザーのように働きましたね(笑)来た仕事はすべて受けると決めて、とにかく何でもやりました。楽しかったけど止まり方がわからなくて、いつも身体が疲れていました。

  • そういった働き方はどこかのタイミングで調整されたんでしょうか?

    30代半ばでちょっと病気が見つかって、お休みした時期がありました。でもせっかくワンクッションを挟んだのに、結局その傷も癒えぬまま、また波に飲まれるように仕事を再開してしまい・・・本人の魅力を活かす「ナチュラルメイク」という私のスタイルに対しても、「そんなの誰がやっても一緒じゃん?」と、自信が持てなくなっていたんです。

    ちょうどそのときに、今までの人生の中で一番のダメージと言ってもいいくらいの住宅問題を経験して、平場を歩いていてもつまずいてこけちゃうことがあるんだなと思い知りました。いいと思っていてもダメになるときもあるし、ダメだと思っていてもいいときもある。「人生なんてそんなもん」と思ったら、色々な悩みがふっきれて、すごく気が楽になりました。

太陽の下と、真っ赤なヘアーが似合う浩未さん。

自分が見えていないと、綺麗になれない

  • 苦い経験を糧に、気持ちの強さを得られたんですね。ヘアメイクのお仕事とはどのように向き合ったのでしょうか?

    住宅問題で落ち込んだときに、初めて宝塚にハマりました。宝塚といえば『ベルサイユのばら』ですが、宝塚をそれまで観に行ったことがなかったんです。でもチャンスがあって観てみたらすっかりハマっちゃいました。それですべてが一転したんです。宝塚では女性が男性の役をしたり、国籍や年代が変わったり、ヘアメイクの力でいかようにも変身してしまうんです。ヘアメイクの世界って面白い!というピュアな気持ちを取り戻すことができました。そこからは新しいメソッドを色々開発するようになり、私らしい方向性が見えてきました。

  • ヘアメイクのお仕事を始める原点となった『ベルサイユのばら』がここでも励みになったんですね・・・!

    資生堂と『ベルサイユのばら』に、宝塚が加わって3本柱ができました。3本柱は2本柱よりも強いじゃないですか。3本柱があれば立っていられるから、最強!と思えたんです。夢中になれる「推し」に出会えて、人生がすごく楽しくなりました。

  • 素敵です。ヘアメイクを施す上で、信念はありますか?

    その人「らしさ」を引き出すということでしょうか。その人がメイクに15分しかかけられないならば、その中でベストを尽くそうって思います。瞬間だけでなく、その方がご自身で継続できる美しさを伝えたいです。

  • 「らしさ」って自分ではなかなか気づけないものかもしれません。

    自分を知るってすごく難しいことですよね。私、星占いが大好きなんですけど(笑)星占いは、自分の取り扱い説明書だと思っているんです。要は統計学だから、非常に客観的。世の中にはいろんな人がいて、それぞれにいいところは絶対あるはずなんです。プロのヘアメイクは、技術ももちろん大事だけど、本人が気付かない魅力を客観的に見つけて、輝かせることじゃないかなと思います。

  • 自分のことを知らないがゆえに生じる悩みも多い気がします。

    そうでしょう?メイクも一緒で、見えていないと絶対に綺麗になれないんです。大人になってくると目が悪くなってきて、見えてなくてもまあいいやってメイクしちゃうんですよね。お掃除だって、コンタクトも眼鏡もしないでしたところで、色んなところに埃が溜まったままで、本当に中途半端なお掃除しかできないもんね(笑)

    だから、綺麗になるには見えていなきゃダメ。私は目が悪くなった大人には10倍の拡大鏡をおすすめしているんだけど、みんな見たくないって言うんです。でも、真実を知らないと綺麗になれないよっていつも言っています。まずは自分を知る、それが綺麗になる第一歩じゃないかな。

ご本人曰く、「飽きっぽい性格」なんだとか。そんな中、20年以上好きであり続けているのが宝塚。

見よう見まねで始めて、やると決めたら毎日やる

  • フリーランスでいらっしゃることもあり、1日の過ごし方はその日によって違うと思うのですが、習慣のようなものはありますか?

    日によって本当にバラバラなんだけど、唯一決めているのは、コロナ禍に始めたインスタライブを毎日配信するということです。

  • 毎日はすごいです・・・!

    とにかく最初の1ヶ月は、とりあえずどんなことがあっても毎日10分間やろうと決めて続けました。そうしたら案外評判が良くて、私もそんなに無理していないから、もうちょっと続けてみようと思って、なんだかんだ3年目になります。

    最近は外出も増えて、週に1~2回しかできなくなってしまっていたんだけど、それじゃダメだと気づいて、1日の中でいつでもいいからスキマ時間にやるようにしています。年齢も年齢だから、とりあえずSNSをやろうと思ったときに、YouTubeとか他のSNSも試したんだけど全然使い方がわからなくて(笑)でもインスタライブだけは見よう見まねでやってみたらできたので、自分に合っていたんだと思います。

  • 続ける原動力はどこにあったのでしょうか?

    コロナ禍で雑誌のイベントなどもできなくなったときに、私が役に立てることってなんだろうって考えると、やっぱり美容のこと。外に出かけないにしてもスキンケアをがんばったりメイクを練習したり、そういう意識を持ってもらえたら、家の中で過ごす時間も少し楽しくなるんじゃないかって考えました。自分が無理せず、楽しくできることをやりました。

  • 食事や運動も美容の一環だと思いますが、どのように気を遣われていますか?

    私ってなぜかすごくちゃんとした人に見られるんですけど・・・早寝早起きで、バランスのいいご飯食べている人みたいな(笑)全然そんなことなくて、食べたいものを自由に食べています。

    ただ、運動だけはずっと続けています。30代後半はとにかく体調が悪くて、毎日のようにマッサージに行って、誰かの手を借りないと生きていけない状況でした。ちゃんと自力で立てるようにならないといけないと思って始めたのが、パーソナルトレーニング。それなら1対1だからキャンセルしたら迷惑かけるし、自宅に来てもらえば否応なしにやるしかないから(笑)30代後半から始めて、もう25年くらいは続けています。そのおかげで今はわりとタフなんじゃないかな。

一生働いて、誰かの役に立ち続けたい

  • ヘアメイクの第一線を走り続ける浩未さん。ときめきが多そうですが、日々どんなことにときめきますか?

    やっぱり綺麗なものや美しいものは大好きです。例えばカフェに入って手に取ったコーヒーカップひとつでも、デザインが素敵だなとか触り心地がいいなとか、何かが自分の琴線に触れる瞬間は多いのかなと思います。

  • 最近ときめいたことは何でしょうか。

    京都の「小慢京都」というギャラリーに中国茶のお稽古のために通っていたことがあったのですが、そのギャラリーを今年の春で閉めるというので、久しぶりに訪れたんです。それはもう、美意識の詰まったお茶のお手前、お作法、空間、器・・・すべてが美しくて、ときめきでした。

    同じく京都の「TOMO」というお店も素晴らしかったです。最初は今どきのレストランっていまいちなんだよね~なんて思っていたんだけど(笑)このお店は全部美味しくて、見た目も素敵。驚きの連続でした。

  • 京都で素晴らしい時間を過ごされたんですね。

    京都ではたくさんの新しい世代の人たちがお店をしていますよね。私くらいの年齢になると、もう別に冒険もしなくていいやって、つい決まった好きなお店に行きたくなるんです。でもやっぱり失敗してもいいから、新しい場所に行かないといけないって思いました。だって、これだけキュンキュンするんだから!

中国茶のお稽古に通っていた仲間たちと。京都はいつだって新しい発見をくれる場所なんだとか。

  • 本当ですね…!勉強になります。これからはどんな未来像を描いていますか?

    私はとにかく一生働きたいって願っています。「働く」とはどういうことかというと、人に求められる人、誰かの役に立てる人でいたいんです。もう40年くらい美容の仕事をしていますが、こんなに長く美容の仕事で求められることができたなんて、本当に幸せだなって。人が楽しそうにしていると私も楽しくなるので、この先もそんな風であり続けられたらって思います。

  • 最後に、浩未さんにとっての「ときめき」を教えていただけますか?

    「Beautiful」です。

浩未さんのくらしきぬ愛用品

「はらぱん」が大好き!「はらぱん」というネーミングもいいですよね。寝るときはシルク&ウールのはらぱんが欠かせません。

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  • 取材・文・撮影:
    佐藤文子
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